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鳥取地方裁判所 昭和36年(わ)119号 判決 1961年12月11日

被告人 渡辺義久

昭一三・二・一二生 自動車運転者

主文

被告人を禁錮一年六月及び罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、本籍地の中学卒業後、直ちに、大阪市内で自動車修理見習工として、昭和三一年四月頃から、倉吉市内で製麺所工員見習として、次で、昭和三五年四月頃から、鳥取市内で自動車修理工として働いていたが、同年一二月一九日、鳥取県公安委員会より、普通自動車運転免許を受けた上、翌昭和三六年一月六日、鳥取市富安所在の中山土建株式会社(社長中山牧蔵)に雇われ、爾来、主として小型四輪貨物自動車運転の業務に従事し、同年五月下旬頃、同会社が同市伏野地内一級国道九号線の舗装工事を請負い、これに着工するようになつてからは、該工事現場への資材運搬の外、臨時雇傭の人夫輸送のため、連日、気高郡鹿野町大字今市部落と右工事現場との間の運転往復に当つていたものであるところ、

第一、法定の除外事由がないのに拘らず、同年七月一五日午前七時二五分頃、同郡気高町大字宝木初出栄治方前附近の道路において、乗車のために設備された場所以外の場所たる荷台に、人夫三〇名を乗車させて、小型四輪貨物自動車(鳥四す四、〇七五号)を運転し、

第二、同年八月九日午前七時三〇分頃、同町大字下坂本地内の道路において、前記第一の場合と同様、荷台に、人夫一〇名を乗車させて、前記貨物自動車を運転し、

第三、同月二九日午后五時三〇分頃、前記工事現場の作業が終了し、同郡鹿野町大字今市部落方面に帰宅せんとする人夫のうち二名を前記貨物自動車の助手席に、同じく、二五名位を荷台に乗せ、これを運転して出発し、途中、同郡気高町大字酒の津部落で、知人二名を荷台に便乗させ、そのうち五、六名を同町宝木地内で下車させ、同町大字矢口地内の県道を南方に向け時速三五粁位で進行し、午後六時頃、同町大字下坂本地内国鉄山陰線坂本踏切にさしかかつたが、該箇所は、自動車の進行方向に向つて左側は、踏切の東方約二九〇米の砂山までは一面水田等が続いて見透し充分であるに反し、右側は、踏切の西方約二四米の地点から長さ一四四米余の日光トンネルがあり、その手前には桑畑もあつて、該トンネルまでの見透充分ならず、トンネル内部を望見せんがためには、踏切まで二米位の地点に接近せざるを得ない状況であり、而かも、該箇所には、踏切警手の開閉する遮断機、警報器等列車の通過を予報する施設がないのであるから、苟くも、自動車運転者たる者は、かかる場合、先ず、踏切の直前で停止し、且、左右の線路を充分注視し、進行して来る列車のないことを確認し、以て、不祥事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに拘らず、被告人は、これを怠り、単に、右踏切まで一〇数米の地点に達してから、若干減速したのみで進行を継続し、而かも、踏切の直前では、右側日光トンネルの方面を注視したのみで、左側宝木駅方面は全く一瞥だにせず、折柄、時速約六五粁で、国鉄大阪発上井行八〇七号準急みささ号気動車が宝木駅方面より疾走して来ているのに気付かないまま、一気に右踏切を通過すべく速度を増し、踏切内に進入したため、既に、右踏切より東方約五五米の地点から非常制動の措置をとつたが、惰性によつて進行して来た右気動車の前部が右自動車左側後部車体に衝突し、そのため該自動車は約三・七米はね飛ばされ、よつて、別紙第一の一覧表記載のとおり、該自動車に乗車中の永田頼子外四名をしてそれぞれ即死せしめると共に、別紙第二の一覧表記載のとおり、同じく右黒恵美子外一五名をしてそれぞれ傷害を蒙るに至らしめ、

第四、法定の除外事出がないのに拘らす前記第三記載の日時、場所において、制限外荷台乗車許可にかかる乗車定員一五名を七名超過せる二二名の人夫を前記貨物自動車の荷台に乗車させて、これを運転し

たものである。

(証拠)(略)

(法令の適用)

被告人の判示所為中、第一及び第二の点は、いずれも道路交通法第五五条第一項本文、第一二〇条第一項第一〇号に、第三のうち、踏切通過の規定違反の点は、同法第三三条第一項、第一一九条第一項第二号に、五箇の業務上過失致死の点及び一六箇の業務上過失致傷の点は、いずれも刑法第二一一条前段、罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第一号に、第四の点は、道路交通法第五七条第一項本文、第一二〇条第一項第一〇号に該当するところ、判示第三の踏切通過の規定違反の犯行は、各業務上過失致死、或いは、同致傷の罪の構成要件たる過失の内容を成するものであるから、結局、判示第三の各罪は、一箇の行為にして数箇の罪名に触れる場合に該当するものというべく、刑法第五四条第一項前段、第一〇条により、犯情が最も重いと認めるべき判示永田頼子に対する業務上過失致死の罪の禁錮刑を以て処断すべく、以上は、同法第四五条前段の併合罪であるから、判示第一、第二及び第四の点については、同法第四八条第一項本文、第二項を適用した上、右所定刑期及び合算せる罰金額範囲内で、被告人を禁錮一年六月及び罰金一万円に処する。次に、右罰金を完納することができないときは、同法第一八条により金五百円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置すべく、なお、訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して、全部被告人をして負担せしめることとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(裁判官 組原政男 吉田武夫 山口和男)

別紙第一、第二死亡者一覧表(略)

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